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「買いたい新書」連載にあたって 難波紘二
90年代の初めにインターネットが出現して以来、必用な情報を素早く入手することが可能になりました。携帯とネットが接続して、最近では何処にいても音楽や動画を楽しめるようになりました。1455年のグーテンベルグによる活字印刷の発明以来の「情報革命」が、いま進行中です。が、それらは情報断片です。
他方で、従来型の印刷本も「出版不況」といわれながらも、日本では年間約7万点が出版され、店頭に溢れています。本を読むことについて、古人はこう言っています。「書物を開くと、昔の人と会話できるのが楽しい」(アリストテレス)、「一人燈火の下で書物を広げて、遠い昔の人を友達にすることほど、楽しいことはない」(兼好法師)、「楽しみは、そぞろ読みゆく書(ふみ)の中(うち)に、我とひとしき人をみし時」(橘曙覧〔たちばなのあけみ〕、幕末の福井藩学者)
今の世の中、「専門化」が行き過ぎて、若い人の「教養不足」が問題とされています。派遣労働者問題、失業率の増加問題なども、雇われる側に教養不足があり、つぶしが利かない点に雇う側が二の足を踏んでいるのが一因です。
「教養とは、専門的知識はなくても、話し手の説明の中で、どこが正しくて、どこが間違っているかを、適切に判断出来る能力である」(アリストテレス)。「教養は、順境にあっては飾りであり、逆境にあっては避難所である」(同)。そしてこの高齢化社会、やがて誰でも歳をとり、会社人間から離れます。会社で維持してきた人間関係を失ったとき、孤独が待ち受けています。その時こそ、読書によって得られた教養が、人を支えてくれるのです。「教養は、老齢にとってのもっとも素晴らしい路銀である」(同)
この連載では、私が今まで読んできた本、これから読む本だけでなく、選書法、速読法、本の整理法についても紹介する予定です。

獄門島 角川文庫, 1971
横溝 正史
横溝 正史
日本の本格的推理小説作家の横溝正史は、1920年作家として世に出たが、間もなく肺結核に冒され、長い闘病生活を余儀なくされた。戦争末期、父の実家があった岡山県西部の村に疎開し、3年を過ごした。ストレプトマイシンで結核を治療後、作家活動を再開したが、彼の作品に見られる土臭い、因習的な風味はこの時の体験にもとづく。「獄門島」(1949)はボサボサの髪をして、袴をはき、下駄をはいた名探偵金田一耕助が登場する作品としては、「本陣殺人事件」(1948)以来2作目である。1作目は昭和12(1937)年に設定されていたが、「獄門島」はそれから10年後の10月、戦争が終わり南方から引き揚げ船に乗った金田一が、船中で「妹三人が殺される!島へ行ってくれ…」と戦友に遺言されるところから始まる。その男鬼頭千万(きとうちま)は岡山県と広島県、香川県の三つの県境が接する辺りにある、瀬戸内海の孤島、獄門島の出身で、島を支配する大網元鬼頭家(本鬼頭)の長男であった。島には分家である分鬼頭家があり、その長男一(はじめ)もやはり南方に出征していた。両家は対立関係にある。
千万の死を本鬼頭に伝えた耕助は、千万の祖父嘉右衛門が死去し、父の与三松は発狂して座敷牢に入れられ、姪の早苗が面倒をみていること、与三松の死んだ後妻で元旅役者の小夜が生んだ、18歳の月代を頭とする雪枝、花子の三姉妹はいずれも頭がおかしいことを知る。与三松の弟、分鬼頭の当主儀兵衛は中風で寝込んでいて、後妻の志保は復員兵の鵜飼を滞在させている。本鬼頭の膨大な財産は、分家の一が相続するか、気の変な三姉妹が受けつぐか、微妙な状況にある。
取りあえず、嘉右衛門が支援していた曹洞宗千光寺の了然和尚のやっかいになることにした耕助は、和尚が用意してくれた枕屏風に、俳句が書かれた奇妙な3枚の色紙が貼られているのを見つける。達筆で書かれた句を耕助は苦心して判読するが一句だけは読めない。
むざんやな 兜の下の きりぎりす(芭蕉)
一つ家に 遊女も寝たり 萩と月(芭蕉)
◯の ◯を◯に ◯◯かな(其角)
鬼頭千万の通夜の夜、花子の姿が消え、千光寺の庭で梅の古木の枝から逆さづりの絞殺死体となって発見される。こうして三姉妹の連続殺人事件が始まる。戦後という混乱期、因習に満ちた瀬戸内の孤島で、俳句を下敷きに展開される殺人。巧妙なトリック。動機は何か。犯人は誰か。そして誰も逮捕されないという結末。趣向といい緻密な構成といい、横溝作品のなかでも最高傑作のひとつとして挙げられる推理小説である。
獄門島
横溝 正史
出版社:角川書店; 改版 (1971/10)
文庫:353ページ
サイズ:14.8 x 10.6 x 1.6 cm
カテゴリー:推理[日本/戦後]
書評者:難波紘二
書評日:2012年1月30日
横溝 正史
出版社:角川書店; 改版 (1971/10)
文庫:353ページ
サイズ:14.8 x 10.6 x 1.6 cm
カテゴリー:推理[日本/戦後]
書評者:難波紘二
書評日:2012年1月30日












